Googleしごと検索の1年を振り返って
ちょうど1年前の今頃、我々ウィルビーがずっと追いかけていた通称:Google for Jobs、(日本でのサービス名はGoogleしごと検索)がとうとう日本に上陸するという報道を日経新聞が行い、2019年は面白い年になりそうだとワクワクしていました。実際にGoogleしごと検索が日本でローンチされたのは今年の1月でしたが、ローンチからこの12月31日に至るまでいろいろなことがありました。この記事ではローンチから現在に至るまでに起こった事象を振り返ってみたいと思います。
2018年12月28日にグーグルフォージョブズが1月に日本上陸:日経新聞が報道
12月28日の日経新聞にグーグル、求人事業に19年参入 検索結果で仕事を提案という記事が掲載されました。
この記事が掲載される少し前に日経新聞さんから私宛に電話があり、この報道に先立ってGoogleが行う求人事業、通称Google for Jobsとはなにかという電話インタビューを受けました。
日本では当社ウィルビーを含めていろいろな企業がセミナーやウェブ記事を出していたこともあって求人事業者にとってはそこそこの知名度でしたが、この日経新聞さんの報道をもって一気に広まったものと思われます。
関連記事:グーグル、求人事業に19年参入 検索結果で仕事を提案
2018年12月29日、大手求人事業会社の株価が軒並み下がる:日経新聞
日経新聞の報道の翌日、パーソルやリクルートを含めて大手求人事業者の株価が下がりました。私はGoogleしごと検索や最新HRテック事情について機関投資家や金融機関の方に講演・レクチャーさせていただくことが多いのですが、やはりこういう黒船的なサービスがローンチされると株価に影響します。今年一年は日本のHRテック市場、とりわけ採用系HRテックではDisruptを起こすサービスは現れていないので年明け1月6日の株価は安定しているのではと予想しています。
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2019年1月23日にGoogleしごと検索として上陸
12月に日経新聞が報道したものの、我々のような業界関係者は「1月も怪しいのではないか」と思っていました。ところが1月23日の12時すぎからリッチリザルトに求人情報が現れるようになり、Googleしごと検索がローンチされたことを知りました。
正式名称はGoogle for Jobsではなく、Googleしごと検索(Job Search on Google)
同日、Googleも公式ブログにGoogle しごと検索で、仕事探しをもっとスムーズに!というタイトルの記事を投稿し、日本でのローンチを公式発表しました。
アジアでは8月にシンガポール、インドネシア、タイ、韓国などでリリースされていましたので、アジアでは後発だったでしょう。
日本独自の仕様、Googleしごと検索のリッチリザルトが自然検索結果の最上位に位置こないことがある。
上の画像のように日本でローンチされてから気がづいたのですが、Googleしごと検索のリッチリザルトが自然検索結果の最上位に来ないケースがよくありました。そもそも、日本以外の地域ではGoogleしごと検索のリッチリザルトは常に自然検索結果の最上位にあり、リッチリザルトの上はAdWordsのみということが世界共通の仕様でした。検索エンジンのプラットフォーマーであるGoogleが自社のサービスで自然検索結果の最上位を独占するという仕様があったからこそ、日本でのGoogleしごと検索はIndeedをに代わるDisrupter(破壊者)となるのではと恐れられていました。しかし、現在に至っても状況は同じで、日本では自然検索の最上位を必ずGoogleしごと検索のリッチリザルトが占めるということではなく、検索クエリによってはIndeedや求人ボックスというアグリゲート型求人サイトの情報がGoogleしごと検索のリッチリザルトよりも上位に表示されることがあります。
後にIndeedの担当者から聞いた話と、SimilarWebを使って調査してわかったのですが、Googleしごと検索ローンチ後の2月〜4月の間においてIndeedへのトラフィックは数%しか減っておらず、IndeedにとってはGoogleしごと検索ローンチの影響は「無風」と言えるレベルだったのでしょう。
以下の図はIndeed社から提供されたものですが、Googleしごと検索ローンチ後にクリック単価が高騰しています。(実際の単価は教えてもらえませんでした)これを見ても分かる通り、Googleしごと検索がローンチされた後もIndeedはクリック単価を上げるほどに顧客が増加していったことがわかります。
この状況を生み出すために、Indeedは広告面でも準備していたことがわかります。以下の画像のデータは2017年3月から閲覧できたのですが、7月以前は20位圏外で確認できず。2017年7月から関東地域でのCM放送回数ランキング2位に突如なります。ちなみにこの時の一位はトリバゴ、3位はdocomoです。
Googleしごと検索がアメリカでリリースされたのが2017年6月ですから、その前にIndeedのCMを準備していたことになると思います。
やはりリクルートはリリースの時期を察知しており、この時から日本上陸を見越して広告費用を投下していたのではと考えています。
2019年2月〜加熱する「上位表示」ロジックの追求
日本で正式にGoogleしごと検索がローンチされたことを受け、日本の求人事業者、広告代理店などが一斉に「Googleしごと検索内における上位表示はどのようにすれば獲得できるか」に対する追求をはじめました。アメリカでGoogleしごと検索がリリースされて以来、調査とレポートを続けてきた当社への問い合わせも急増していました。Googleしごと検索自体は日本でリリースされたばかりの頃、「タイトルに地名を入れると検索されやすい」などブラックハットSEO的なテクニックもあり、当社もセミナーで「地名+会社名、職種名をタイトルに入れると上位表示される傾向がある」などレポートしたことがありましたが、これはGoogleが示すガイドラインに違反することであり、当社はペナルティを受けるかもしれないので注意するようにと警告していました。予想は当たり、すぐにガイドライン違反に対するペナルティが多発することになります。
2019年3月〜多発するガイドライン違反に対するペナルティの嵐
当社もガイドライン違反に対する警告を発する中、とうとうGoogleの金谷氏がTwitterで以下のようにツイートしました。
大変多くの方にご利用いただいている Google しごと検索ですが、ガイドライン違反の求人情報の報告が増えています。下記ページのガイドラインに違反している場合、手動対策の対象となる可能性がありますので、今一度プロパティの記述内容など見直してみることをお勧めします。https://t.co/4qL7wejW7G
— 金谷 武明 Takeaki Kanaya (@jumpingknee) 2019年3月5日
このツイートの翌日、とある大手求人媒体がペナルティを受けて、掲載案件の95%をGoogleしごと検索から削除されるという事態が発生しました。
関連記事:【警鐘】Googleしごと検索(Google for Jobs)でガイドライン違反ペナルティによる大規模な手動削除が発生
続いて大手求人媒体が軒並みペナルティを受ける事態に・・・
さらにこれ以降、日本の大手求人媒体が次々にガイドライン違反のペナルティを受け、Googleしごと検索から排除されていきます。
関連記事:【警鐘】超大手媒体が手動削除を受けGoogleしごと検索から非表示に!?
当社が観測する範囲において、主なペナルティ原因は以下の内容だったのではと推測しています。
・titleへ職種とは関係のない内容を記載する
・給与の金額欄に数値以外の文字列を入れる
・構造化データのマークアップ方法がガイドラインで指定されている通りではない
この時点で、皆さんが知る求人サイトはほぼ、ペナルティを受けていると言っても過言ではないでしょう。実際に名前を出すと良くないと思いますので出しませんが、ペナルティの速報が入るたびに驚いていました。
日本の求人媒体はGoogleが定めるガイドラインに合わせづらい仕様になっている
そもそもなぜ、このようにペナルティが多発するのかについて考えていたのですが、私は日本の求人サイトの仕様がGoogleが示すJobPosting実装ガイドラインに合っていないためだと結論付けました。以下のスライドは2019年9月にGoogleのWebmaster Coference SapporoのLTに登壇させていただいた発表した資料です。この資料でも説明していますが、日本の求人サイトがGoogleのガイドラインに合わせづらいのは以下の点があるからだと思っています。
①求人のタイトルをtitleと混同してマークアップしているところが多い
②給与情報を自由記述で入力しているサイトが多く、給与種別+給与額を示すという外ドライに合わせづらい
③全体的に記号が多い
④「派遣」の扱いに苦慮
関連記事:構造化データマークアップに関するペナルティについて
ペナルティを受けると受信する通知メール
ガイドラインに違反すると、Search Console上の「手動による対策」メニューで内容を確認できるようになります。また、メールでも以下のような通知があります(一例です)

上記のものは一例ですが、このような違反がたくさんあり、ペナルティが多発するということになってしまいました。
hiringOrganization周りのペナルティが発生
hiringOrganizationに勤務店舗名を入れているとペナルティを受けることがわかりました。この時期に当社へ寄せられた情報によると、例えばですが、ガスト〇〇店ではなく、株式会社すかいらーくにすることでペナルティを解除できたそうです。
2019年3月〜誤ったロゴ表示が多かったGoogleしごと検索
この時期からGoogleしごと検索で8月頃までGoogleしごと検索に対応しようとしている人が苦戦したのが、ロゴの表示でした。
Googleしごと検索では求人情報の中にロゴを掲載することができるのですが、それがガイドラインに定められたとおりに実装しても表示されず、また、ロゴを表示する実装をしていない場合に、間違った他社のロゴが勝手に表示されているケースも頻発していました。(現在はガイドラインに通りに実装すると正しく表示されるようになり、おかしいロゴも表示されなくなりました)当社の顧客でもなぜかサッカーチームのロゴが表示されていたり、全く無関係だが社名が同じ会社のロゴが表示されているというケースも有りました。
関連記事:【実例つき】Google for Jobs(Googleしごと検索)で介護士求人にAppleのロゴが表示される理由とは?
2019年4月、アメリカにて「在宅勤務」フィルタが登場、日本では未公開
日本でペナルティ騒動が発生している中で、アメリカではGoogleが公式ブログで新たな機能追加を告知しました。
検索フィルターにWork from homeという在宅勤務の案件を掲載できるようになり、構造化データのマークアップもリモートワークを追加できるようになりました。
関連記事:A new way to find work-from-home (or wherever) opportunities
2019年7月〜流入は圧倒的に少ないが高いCV率があることがわかってくる
ペナルティ騒動が落ち着いてきた頃でも、Googleしごと検索からの流入は依然として少ない状態が続いていました。多くのサイトにおいて、Googleしごと検索からのトラフィックが10%を超えるところなど殆どないのではと思っています。8月には海外でも「Google for Jobsのインパクトは極めて限定的だ」という記事も発表されました。
関連記事:Axel Springer on M&A hunt before ink dries on KKR deal
流入数が少ないことは事実でしたが、CV率が高いことはわかってきました。CV率の高さにはばらつきがあるのですが、だいたい5%以上になるところが多いようです。
2019年8月、23の求人サイト事業者が欧州委員会へ「Googleしごと検索は反競争的」と訴える
EU圏内では罰則金を課せられることが多いGoogleですが、Googleしごと検索も欧州委員会に訴えられてしまいました。2019年12月31日現在、Googleがしごと検索において罰則金を課せられたということにはなっていませんが、プラットフォーマーであるGoogleがGoogleしごと検索のリッチリザルトを自然検索結果の最上位を独占するということと、その上位表示ロジックが不透明であることを考えても、Googleが反則金を受けることはあり得ると思います。
2019年10月以降〜日本には新しい仕様も特に公開されず、安定期に入る
夏以降、特に日本では新しい仕様も公開されず安定期に入ったと思われます。
しかしながら、まだ地図表示についてはこちらに投稿されていることもある通り、バグが潜んでいそうです。日本では自然検索の最上位に表示されないということもあり、イマイチなインパクトですが今後に注目したいと思います。
Googleしごと検索内で上位に表示されるものは、Googleの自然検索結果でも上位に表示されることが多いことが判明
少し前に調査したところによると、どうやらGoogleしごと検索内で上位表示されるものはそもそも、自然検索の結果でも上位表示されていることがわかってきました。こちらの記事でレポーティングしていますが、そもそもGoogleは「よりよい検索結果を提供するために」日々邁進しているプラットフォーマーですから、Googleしごと検索内でも同じポリシーを持っており、Google自然検索の結果と上位表示のルールが異なるのはおかしいことですね。ガイドラインやポリシーなどすでに公開されているGoogleのルールをちゃんと守り、求職者に対してよりよいコンテンツを作り続けろということでしょう。
関連記事:【事例あり】Googleしごと検索の上位表示とオーガニック順位には関係が見られる
Googleしごと検索がリリースされて約一年経ち、ペナルティ騒動などを経てようやく安定してきたと思っています。Googleしごと検索内に広告表示されることは今のところ無く、世界的にもそのような情報は出ていません。Googleしごと検索は現在100カ国以上に展開されており、ほぼ全世界に行き渡ったと言ってもよいでしょう。東南アジアなどではまだGoogleで仕事探しをするという行為が定着していないですが、時間の問題かもしれません。Googleしごと検索のライバル的存在として挙げられるIndeedはすごいサービスで、月間ユーザーも2億人を超えるサービスですがプラットフォーマーではありません。Googleはプラットフォーマーであり、検索結果を制御することが可能です(Googleしごと検索をIndeedに勝たせるためにやるとは思えませんが)。資金力、技術力いずれもIndeedよりGoogleのほうが上であることは事実です。そのGoogleが次の手にどんなを打ってくるのか。日本ではGoogleしごと検索に対する興味が薄れてきているように思えますが、私はとても楽しみにしています。
今後も引き続き、Googleしごと検索についてレポートしていきます。来年も、どうぞよろしくお願いいたします。